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創薬とは?創薬の概要と個別化医療についてまとめました

  • 執筆者の写真: Tokaihit
    Tokaihit
  • 14 時間前
  • 読了時間: 10分



PubMedの使い方イメージ

創薬とは新しい医薬品を開発する工程の「すべて」を指しています。薬のターゲットとなる病気の原因の特定、薬に用いる物質の決定、そして安全性や効果の確認といったこれら全ての工程が「創薬」となります。

本記事は、創薬の基本情報をまとめつつ、研究内容に焦点を当てて解説しています。創薬研究に役立つ製品も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。




目次





1.創薬とは?



1-1)創薬=新しい医薬品を創ること



創薬とは新しい医薬品を生み出すためのすべての工程を指します。これは、単に薬の元となる化学物質を発見するだけでなく、その物質がヒトの病気に対して有効かつ安全であることを証明して国の承認を得るまでの、膨大で複雑なプロセス全体を意味します。さらに、創薬における成功率は極めて低く約数万分の1ともいわれており、創薬は極めて挑戦的な活動ともいえるでしょう。



1-2)創薬のプロセス



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新しい薬が世に出るまでには、通常で10年以上という長い期間と数千億円という莫大な費用がかかるといわれています。薬では大きく分けて、下記のプロセスに分けられています。


a)基礎研究


薬の候補となる新規物質を見つけることから創薬は始まります。基礎研究では、対象の病気がどのように発生するか、その原因となっている分子(タンパク質や遺伝子など)を特定し、その標的分子を抑制したり活性化したりさせることで本当に病気が治療できるかを実験で確認します。その中で、標的分子に作用する候補物質を見つけ出す作業が「スクリーニング」です。ここでは、数十万~数百万の化合物の中から、目的とする効果や作用を持つ薬の候補となる物質(リード化合物)を探し出します。そして、探し出したリード化合物の効果を高めて体内で安定して働くように改良が行われ、次の非臨床試験に進みます。ここまでで約2~3年の歳月が費やされ、ようやく数個の開発候補品が選定されることになります。


b)非臨床試験


非臨床試験では基礎研究にて選ばれた開発候補品がヒトに投与できるかを判断するために、ヒト以外の対象(細胞や動物)で詳細に調べます。対象の実験に対してどれだけの効果があるかを調べる「薬効薬理試験」、毒性がないかや副作用の許容がどれほどなのかといった安全面を調べるための「毒性試験」、 薬が体内でAbsorption(吸収)、Distribution(分布)、Metabolism(代謝)、Excretion(排泄)される経路を調べる「薬物動態試験(ADME)」などが行われます。また、同時に治験薬としての品質や安定性も調べられます。非臨床試験は約3~5年かかり、開発候補品が決定されます。


c)臨床試験


非臨床試験で決定した開発候補品をいよいよヒトに投与して、効果や安全性の確認を行います。これが一般に呼ばれる「治験」に該当しますが、次の3段階のフェーズに分けられています。


第Ⅰ相:少数の健康な人を対象に、副作用などの安全性の確認を行う

第Ⅱ相:少数の患者を対象に、安全かつ有効な薬の投与量や投与方法の確認を行う

第Ⅲ相:多数の患者を対象に、既存薬などと比較して有効性や安全性の確認を行う


治験は、法律に従い、多くの専門家による検討や審査に基づいて行われ、約3~7年の期間を要します。


d)承認申請と審査


治験にて有効性、安全性、品質が証明されると、製薬企業がこれまでのプロセスをまとめた膨大なデータをもとに、厚生労働省への承認申請を行います。その後、医薬品医療機器総合機構と専門家などで構成された薬事・食品衛生の審議会の審査を通って初めて正式に医薬品として承認され、市場に出回るようになります。申請と審査で約1~2年ほどなので、スタートである基礎研究から新薬が患者に届くまでには長くて10年以上はかかる計算になります。


e)製造後販売調査・試験


販売が可能になった後にも新薬は有効性や安全性の調査と報告が義務付けられており、多くの患者による使用データを基に、より良い薬への改良を目指します。これはより優れた薬に育てるという意味合いから「育薬」とも呼ばれており、より安全かつ適正に使用されるために新薬の情報は常に更新されています。



このように創薬は非常に長く複雑なプロセスですが、AIやゲノム医療の進展により、より効率的で精密な医薬品開発が可能になりつつあります。ここからは、創薬のトレンドである「AI創薬」と「個別化医療」について簡単に解説したいと思います。




2.創薬における個別化医療とは



個別化医療とは名前の通り、患者ひとりひとりの体質や病気の特徴に合わせて、最適な治療法や予防法を設定する次世代型の医療です。創薬における個別化医療では、薬の効果を最大限に、副作用を最小限に、という考え方になります。ここでは、どのように創薬の各プロセスでどのように個別化医療が進められているかと、個別化医療によるメリットについて簡単にまとめたいと思います。



a)基礎研究


基礎研究では「ゲノム解析」を行い、薬を開発するターゲットを明確にします。病気の原因物質を探して調べるだけでなく、それを持つ患者も同時に調べることで病気の発生や進行に直接関わっている遺伝子やその遺伝子が作るタンパク質を特定し、疾患の根本原因を探ります。

また、特定の分子標的(遺伝子異常)だけを狙い撃ちする分子標的薬の開発を行います。従来のように手探りで候補物質を探索するのではなく、ピンポイントで標的に作用する薬を設計することで開発期間とコストの大幅な削減が期待できます。


b)非臨床試験(in vitro / in vivo)


患者由来オルガノイド(PDO)やゼブラフィッシュモデル(PDXZ)を使って、個別の腫瘍に対する薬の効果を検証します。これらのモデルは患者の腫瘍から培養もしくは移植して作成されているため、患者の遺伝子や薬剤への応答性を持ち合わせており、個別化医療における薬効評価に大きく貢献しています。


c)臨床試験(治験)


特定のバイオマーカーを持つ患者だけを対象にした遺伝子変異に基づく新しい試験デザインが生まれ始めています。治療効果が期待できる患者(バイオマーカー陽性)に絞って試験を実施するので治療効果を明確に検出しやすくなります。また、治療効果が期待できない患者(バイオマーカー陰性)を除外することで、無駄な副作用のリスクを回避することもできます。




3.AI創薬とは



AI創薬とは、人工知能(AI)を活用して新しい医薬品の開発を効率化・高速化する手法です。

冒頭で説明したように、創薬のフローは非常に時間もコストもかかります。そこで、近年発達してきたAIの技術を使って、効率化やコスト削減が期待されています。

AIは、数千万件に及ぶ化合物データや、膨大な医学論文、ゲノム情報などを人間には不可能な速度で処理・分析が可能です。これにより、創薬の初期段階である「標的分子の探索」や「候補物質の絞り込み」の期間を大幅に短縮できます。(今までに数年かかっていたリード化合物の特定が数ヶ月に短縮されるケースも出てきています)また、化合物の毒性や薬物動態(ADME: 吸収、分布、代謝、排泄)を実験前に高精度で予測することも考えられており、これは臨床試験での失敗のような研究段階が進んだ上での失敗を防ぐことに繋がるため、開発総コストの削減にも期待が高まっています。


一方で、AIを用いることでいくつかの大きな課題も存在しています。

まず、AIの学習データに関する課題です。AIを使うにはAIが働くための様々なデータの蓄積が必要であり、それは患者のゲノムデータなどの個人データだけでなく、医療行為や医薬品情報の記載されたレセプトや電子カルテデータといった医療ビッグデータも含みます。そして、それらのデータの中にはまだAIがすぐに解析できないようなデータも多くあり、データのクレンジングと標準化が求められています。また、創薬に関するデータは機密性が高く、特定の研究機関や企業によって閉鎖的となってしまうことで、良質な学習データが集まりにくいという問題もあります。

次に、AIの技術に関する課題です。AIが導き出した結果の中にはその結果に至った明確な根拠や理由が説明できない場合もあり、科学的な根拠が求められる医薬品の承認プロセスでは大きな障壁となります。また、AIは学習したデータの中からパターンを見つけ出すのは得意ですが、学習したデータに存在しない、全く新しい概念を見つけたり発想することには限界があります。AIのもつ高度なデーや処理能力と、人が持つ独創的な思考や倫理観を持った判断を連携させる研究体制が求められています。




4.生体模倣システム(MPS)の有用性



生体模倣システム(MPS: Microphysiological Systems)とは、ヒトの臓器や組織の構造・機能をマイクロチップ上で再現する技術です。生体模倣システムがどのようなものかについては、過去に解説した記事がありますので、ぜひそちらをご覧ください。



創薬においては特に非臨床試験にて活用されており、従来の動物実験では再現が難しかったヒト特有の反応を生体模倣システムで再現できることから実用化が進められています。例えば、がんの微小環境や臓器間の相互作用といった従来のがん細胞株の単培養では困難だった複雑な病態や悪性化の特性を再現し、より適切な薬理活性の評価が可能になります。また、患者由来のiPS細胞などを用いたMPSでは個々の患者の臓器環境をチップ上で再現することで、個人ごとの毒性や副作用リスクをより正確に予測することが可能となり、その患者に最適な治療法や薬剤を個別に評価できます。

さらに、動物実験の代替としても注目されており、倫理的な利点からも活躍も期待されています。




5.マイクロスケール灌流「MiViVo」



株式会社東海ヒットは生体模倣システムの製作に力を入れており、微小(Micro)×生体内(ViVo)のソリューション「MiViVo®」を開発しています。「MiViVo®」はマイクロスケールの灌流が可能な製品シリーズとなっており、自作を含むあらゆるマイクロ流路チップに対応可能です。また、35㎜ディッシュやマイクロ流体チップを使った灌流培養だけでなく、セルカルチャーインサートやセルデスクなどといった様々な市販の容器に対応して、ポンプや容器のカスタマイズも行っています。





6.まとめ



今回は、「創薬」についてどのような研究が行われているかに注目しながら解説しました。

記事の内容をまとめると、以下の通りです。


  • 創薬とは新しい医薬品を生み出すための膨大かつ複雑なすべての工程を指し、10年以上の研究機関と数千億円のコストをかけて行われる極めて挑戦的な活動である

  • AI創薬とは、AIによる研究の効率化や開発総コストの削減を目的とした手法である

  • 創薬では個別化医療が進められており、ゲノム解析や生体模倣システムを用いて患者ひとりひとりの体質や病気の特徴に合わせた新薬の開発が期待されている


株式会社東海ヒットは、オルガノイド培養をはじめとした再生医療分野の研究に導入可能なアプリケーションを開発しております。東海ヒットは研究者の方々のソリューション解決も得意としているので、ご興味ある方はぜひ下記のボタンから詳細をご覧ください。








TOKAI HIT 4D-CULTURE LABをOPENしました!!!


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