こんにちは。
今回は培養におけるコンタミネーション、通称コンタミについてです。
細胞培養や臓器培養など「培養」というと常について回るのがこの問題です。
コンタミというと皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか?
生物学研究を行っている方々がイメージするのは
「汚い」「感染」「やり直し」
などネガティブなイメージですよね。
細胞を播種して、翌日培地交換に来てみると、培地が真っ黄色・・・。しかも何か培地が濁っていて異臭がする。。。
昨日の実験はパーで、一からやり直しか。。。
といったイメージ(というか実体験)がメインかと思います。
筆者は、技術者ながら医科大学の研究室に研究生として飛び込み、実際の研究を行いましたが、このコンタミネーションに悩まされました。
今回は、悩みを解決できる内容となっています。
目次
結論
そもそもコンタミネーションとは?
菌を増やさないようにするには、「抗菌剤」
そもそも菌を入れないようにする、「無菌操作」
実はEx vivo灌流は、コンタミネーションの常連
まとめ
結論
コンタミネーション対策は、洗う、洗う、洗う、とにかく洗うが正解。
そもそもコンタミネーションとは?
コンタミネーションは、英語で「Contamination」。直訳すると「汚染」の意味です(Weblio https://ejje.weblio.jp/content/contamination)。
この「汚染」には、単純に汚くなる、という意味のほかに、目的とは異なるもので汚くなるという意味合いが含まれています。特に培養分野では、目的の物以外が培養されてしまうことをコンタミネーションと呼びます。
したがって、細菌を培養している際に、酵母が生えてしまえばそれもコンタミネーション、逆に酵母を培養しているときに細菌が生えてしまえば、それもコンタミネーションです。
冒頭の例では、ほ乳類細胞を培養している際に、一晩で培地が黄色くなり、濁り、異臭がしたということですから、ほ乳類細胞を培養しようとして、バクテリアがコンタミネーションしてしまったと考えられます。
古くから、コンタミネーションの対策は考えられてきました。
主な対策の考え方としては、
・菌を増やさないようにする
・そもそも菌を入れないようにする
の2つが挙げられると思います。
菌を増やさないようにするには、「抗菌剤」
細胞培養において一般的に培地に添加されている抗菌剤ですが、これはもちろんバクテリアの増殖を抑えるために添加しています。種類、効果のある菌やカビなどはメーカーによってさまざまで、抗菌スペクトルとして表記されていることもあります。
よく使っていたGibcoのPenicillin-Streptomycin (10,000 U/mL) (https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/15140148#/15140148)は、100Xの濃度となっていましたので、指示通りに培地に対して1%の量を添加していました。
しかし、それでも起きてしまうコンタミネーションに悩まされている研究者(もどき)の一人でした。
そもそも菌を入れないようにする、「無菌操作」
培養皿(ディッシュ)の蓋を開けるときは、必ずと言っていいほどクリーンベンチ内で開けます。落下細菌の混入を防止するためです。
この作業を無菌操作といいますが、ウィキペディアによると、“「無菌操作」は、微生物学者が実験を行う際に、検体に含まれる微生物が他の物質と入り混じらないように行う、特異な手技の総称である。”とあります(wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E8%8F%8C%E6%93%8D%E4%BD%9C 2020年6月17日アクセス)。
クリーンベンチの中でも、グローブをして、70%エタノールを噴霧して、さらに、蓋を開けた培地の上に物や手が通らないようにするということは、多くの研究者が、研究室配属されてすぐの先輩からのレクチャーで教わった覚えがあるのではないでしょうか。
これら対策は、培地中に「菌を入れないようにする」という考えの対策といえます。
ちなみに、Ex vivo灌流を実現する「All IN ONE バイオリアクター」はテーブルトップサイズで、クリーンベンチ内にも設置ができます。
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実はEx vivo灌流は、コンタミネーションの常連
これまでは、細胞の話をメインにしてきましたが、Ex vivoで臓器単体を灌流培養する際にも、コミュニケーションの問題は同様に起きます。むしろ、これは私の感覚ですが、細胞培養より多い頻度でコンタミネーションが発生します。
生体の中の臓器は、もちろんコンタミネーションは発生していませんので、コンタミネーションが発生するたびに、「生体の防御機構はすごいなぁ」と感心していました(感心している場合ではないが)。
さて、それではなぜ臓器単体の灌流培養でコンタミネーションが起きてしまうのでしょうか。
細胞と同じように落下細菌が付着している? 抗菌剤が少ない?
私が研究員とエンジニアの両方をしている時代に、この問題に何度も直面し、当時考え付くあらゆる方法で対策を行いました。当時は、ラットの小腸をメインの対象としていましたので、なおさらコンタミネーションしやすい状況でした。
対策1 落下細菌防止
落下細菌防止として、クリーンベンチ内での作業や、摘出手技中の手袋や衣類をクリーンにして作業する。
最終的には、滅菌手袋と滅菌ガウン、マスク、ディスポーザブルのクリーンキャップといういで立ちで、これから外科手術でもするのか?と言われそうな格好をして摘出~灌流開始まで行いました。
・・・・・・発生頻度は減りましたが、それでもコンタミネーションは発生しました。
対策2:抗菌剤の濃度を上げる、種類を増やす
灌流時の培地に添加する抗菌剤の濃度を1%から2%に増やし、抗真菌剤も追加で添加しました。
・・・・頻度は減るも、まだコンタミネーション発生。
対策3:臓器チャンバーとチューブの徹底滅菌
これは結構頻度の抑制に効きました。臓器チャンバーはオートクレーブ対応にして、チューブは、70%エタノールや過酢酸溶液を通した後にオートクレーブするようにしました。
特に、一度コンタミネーション発生したセットで再実験する際に発生していたコンタミネーションの頻度は減らすことができました。
・・・・・・それでもコンタミネーション発生。
対策4:培養中溶液に次亜塩素酸Naを入れる
だんだんやけになってきました。灌流培養中に、臓器の外側の液がコンタミネーションすることが多かったので、そこに向かって次亜塩素酸Naを少し垂らして、培養を継続しました。
培養終了までコンタミネーションなし!お、やったぞ!と思って組織を見ると、見事に漂白されて、細胞が死んでいました。コンタミネーションはしませんでしたが、肝心の臓器が死んでしまいました。
対策5:大量の生理食塩水で洗う
ここで、重要な情報を臨床の先生から入手しました。「臨床では腹膜炎などの手術では、大量の生理食塩水で洗浄しますよ」というものでした。その量はなんと1Lくらい。
なるほど、一応やってみるか、と思い、臓器チャンバーにセットした後に臓器の外側を生理食塩水で洗いました。500mLの点滴バッグを1本使い切るくらいの回数(だいたい、10mlシリンジで50回)で洗浄し、培養してみました。
・・・・・すると次の日、また次の日とコンタミネーションしません。
なんだか、コンタミネーションするのが普通のような雰囲気になっていたので不思議です。
結局最大で14日間培養できました。しかも、2回、3回と繰り返しても、コンタミネーション発生しないではありませんか!!!
上のコンタミネーションの基本対策「菌を増やさないようにする」「菌を入れないようにする」に加えて「菌を洗い流す」というかむしろ「菌が増える前にきれいな培地を供給する」という3つ目の対策を見つけました。
結論:臓器培養のコンタミネーション対策は、洗う、洗う、洗う。
その後、手順を最適化し、抗菌剤入りの生理食塩水で1日毎に外部を洗浄するというプロトコールに落ち着きました。現在では、こちらのプロトコールで安定的にラット小腸の培養ができています。
推測ですが、臓器を摘出する過程では、その周囲(特に動物由来)にコンタミネーション源となる菌がたくさんいて、それを一緒に培養してしまうとコンタミネーションが発生する、という機序が考えられそうです。徹底的に洗うことは、臓器に付着している動物由来の菌を洗い流すことを意味していると考えられます。
逆説的ですが、この手法は細胞灌流を含む灌流培養すべてにおいて言えることで、「菌が増える前にきれいな培地を供給する」という考えでは、細胞灌流にも応用できると考えています。
まとめ
・コンタミネーションは目的以外の物で汚染されること
・細胞培養では、細菌やカビによって汚染されることが多い
・細胞培養では、抗菌剤、無菌操作によってある程度防げる
・臓器培養では、洗う、洗う、徹底的に洗うことで解決
いかがでしょうか?
誰もが一度は経験する、コンタミネーションについて、実体験に基づいた対策をお伝えしました。
少しでも、研究の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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